さんまには酸、きのこには旨み。秋の肴と日本酒の合わせ方
脂がのった肴には、コクの強い酒をぶつける、というのが秋の日本酒選びでよく聞く理屈です。半分しか当たっていません。
秋になると、さんまの塩焼きやきのこの炊き込みご飯が恋しくなりますよね。どちらも「秋の肴」でひとくくりにされがちですが、日本酒との合わせ方でいうと、実は別のタイプの主役です。さんまは脂の肴、きのこは旨みの肴。狙う酒のポイントが違います。
脂の肴には、コクより先に酸を見る
さんまの旬は8月末から10月にかけて。北の海から南下してくるこの時期にぐっと脂がのって、あの塩焼きの香ばしさになります。
脂の乗った魚に酒を合わせるとき、まず働いてほしいのは「コクの強さ」より「酸」です。脂は口の中に膜を張るように残ります。酸のある酒は、この膜を都度リセットしてくれる。脂の乗った肉料理に、酸の立ったワインを合わせるのと理屈はほぼ同じです。
ここで思い出してほしいのが、以前書いたひやおろしの話です。ひと夏の熟成で角が取れて旨みが乗ったぶん、酸もきれいに残っている酒が多いタイプでした。だからこそ、さんまの塩焼きとの相性で名前が挙がりやすいんです。コクの強さだけを見て重い酒を選ぶと、脂に脂を重ねる格好になって、後半で少し重たく感じることがあります。
考えてみると、さんまの塩焼きに大根おろしやすだちを添えるのは、日本の食卓がずっと前からやっていた「酸で脂をリセットする」工夫そのものです。あの一皿はすでに完成された酸の設計図で、酒はその設計図に合わせて選べばいいだけ、とも言えます。純米酒でも、キレのいい辛口タイプや生酛系のように酸をしっかり感じるものを選ぶと、大根おろしの仕事を酒の側からも手伝ってくれます。
きのこの肴には、旨みで返す
一方のきのこは、脂よりも旨みの塊です。しいたけや舞茸、まつたけといった秋のきのこには、だしの主成分に近いうま味成分がたっぷり含まれていて、炊き込みご飯や土瓶蒸しにするとその輪郭がはっきり出ます。
こちらに酸で切り込むと、繊細な旨みまで一緒に流されてしまうことがあります。相性がいいのは、酸より旨みの厚みで応えてくれる酒。米の旨みがしっかり乗った純米系の酒がそれです。きのこの旨みと重なり合って、だしを飲んでいるような満足感が出ます。旨みは旨みで受け止める。脂とは逆の発想です。
土瓶蒸しのように出汁そのものを主役にした料理だと、この重なりがよりわかりやすいです。松茸やしめじの香りに、酒のふくらみが下から支える形になって、片方だけで飲むより満足感が上がる。きのこ汁や炊き込みご飯のような、脂気の少ない献立ほど、酒側の旨みが物を言う場面だと思っておくとよさそうです。
温度でもう一段、合わせにいく
酒のタイプが決まったら、あとは温度です。ここで一手間かけると、同じ酒がもう一段合います。
さんまの塩焼きには、冷やしすぎない常温に近い温度がやりやすいです。キンキンに冷やすと酸が立ちすぎます。脂を切るというより、喧嘩腰になる。冷蔵庫から出して10分ほど置いた温度がちょうどいい。
きのこ料理、特に土瓶蒸しや鍋のように温かい一皿には、ぬる燗が力を発揮します。温度が上がると米の旨みがふわっと開くので、だしの効いた料理との一体感が増す。人肌よりちょっと温かいくらいで十分です。
……と、脂には酸、旨みには旨みと分けて書きましたが、実際の食卓ではさんまの皿の隣にきのこの小鉢が並ぶことも多いはずです。そういうときは、無理にどちらかへ寄せなくていいと思っています。ひやおろしのように熟成で旨みも酸も両方持っている酒なら、皿をまたいでも大きく崩れません。迷ったら、まずそこから試してみてください。
秋は肴も酒も種類が増えて、組み合わせの選択肢が多すぎてかえって迷いやすい時期です。
答えは、わりとシンプルです。脂の肴か、旨みの肴か。今日の主菜がさんまなら酸の効いた一本、きのこ料理なら米の旨みが乗った一本。それだけ覚えて売り場に立てば、選ぶ手が止まりにくくなるはずです。
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