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「醸造アルコール」を見て棚に戻すのは、まだ早いです

大きな酒瓶と、蒸留器のシルエット、赤い雫、米粒を並べた和モダンイラスト

原材料欄の「醸造アルコール」は、手抜きの証拠だと思われています。僕もそう思っていました。その思い込みが、ちょっと乱暴だった話を書きます。

醸造アルコールの正体は、焼酎に近い純粋なアルコール

醸造アルコールと聞くと、いかにも化学的な添加物に思えます。でも中身は、サトウキビの廃糖蜜やとうもろこしなどのでんぷん質・含糖質原料を発酵させ、連続式蒸留機で蒸留した、純度の高い食用アルコールです。

醸造アルコールの造り方は、実は連続式蒸留焼酎(甲類焼酎)とほぼ同じです。原料を発酵させ、何度も蒸留を重ねて不純物を飛ばしていく。できあがるのは、香りも雑味もほとんど残らない、無色透明のアルコールです。工業用の何かを転用したものとは別物で、あくまで発酵で生まれた食用のアルコールです。

つまり醸造アルコールは、発酵という同じ工程を経て生まれた、日本酒の親戚のようなアルコールです。米とは違う原料からできていますが、発酵で生まれるところは同じです。

量に上限がある、水増しではない理由

「アル添は水増し」という感覚の、いちばんの誤解はここにあると思います。醸造アルコールは、加えていい量があらかじめ決まっています。

国税庁が定める「清酒の製法品質表示基準」では、本醸造酒や吟醸酒など特定名称酒に使える醸造アルコールの量は、白米の重量の10%以下と決められています。特定名称酒の記事で書いた「純米かそうでないか」の分かれ道は、この10%という上限があるかどうかの話でもあります。

10%というのは、それほど大きな量ではありません。白米を100キロ使う仕込みなら、加えられる醸造アルコールは95度換算で10キロが上限です。酒の量を増やせる幅は、制度によってあらかじめ狭く決められています。基準を超えて加えれば、本醸造酒や吟醸酒とは名乗れません。ラベルの表示は、ただの「清酒」に戻ります。

ただし、この10%は「本醸造」「吟醸」と名乗る酒にかかるルールです。特定名称を名乗らない普通酒の場合、酒税法の別の枠(副原料の合計が米(麹に使う米を含む)の重量の50%以下)で動いています。ラベルに特定名称が入っているかどうかは、そこを見分ける目印になります。

入れる理由は、香りとキレのため

では、なぜわざわざ加えるのか。答えは「量を増やすため」ではなく、「質を引き出すため」です。

吟醸酒の華やかな香りは、カプロン酸エチルや酢酸イソアミルといった香り成分が生み出しています。これらの成分は水よりアルコールに溶けやすい性質があり、もろみに醸造アルコールを加えることで、酒の中に香りを引き出しやすくなります。純米のままだと、そのぶん香りが酒粕の側に残りやすい、とも言われています。

もうひとつの狙いが、味の軽さです。醸造アルコールを加えると、米の旨みやコクがやや後ろに下がり、飲み口がすっきりします。食事の途中でも重くならない、キレのいい酒に仕上がりやすいのはこのためです。

三つめの、目立たない役割が腐敗防止です。国税庁のページによると、醸造アルコールには清酒を劣化させる火落菌(乳酸菌の一種)の増殖を防ぐ効果もあります。この発想は、江戸時代からずっと続いてきたものです。

特定名称酒で使える醸造アルコールの量が白米重量の10%以下(95度換算)という上限であることと、香り成分を引き出す・味を軽快にするという2つの狙いを示した図

証拠になりそうなデータもあります。酒類総合研究所がまとめた令和4酒造年度の全国新酒鑑評会では、出品酒818点のうち、醸造アルコールを加えていない純米吟醸は290点、全体の35%でした。残りの3分の2はアル添です。金賞を獲った218点にかぎると、その約8割がアル添でした。香りの評価が重視される場で、多くの蔵があえて醸造アルコールを選んでいるのを見ると、アル添は手抜きどころか、技術を磨くための選択肢だとわかります。

「手抜き」のイメージはどこから来たのか

とはいえ、アル添にまとわりつくマイナスイメージにも、それなりの理由があります。

歴史をたどると、江戸時代にはすでに「柱焼酎」という技法がありました。もろみに焼酎を加えて、腐敗(火落ち)を防ぐための工夫です。当時の酒造りは腐造のリスクと隣り合わせで、焼酎を加えることで酒を守っていました。ここまでは、今のアル添と目的がかなり近い話です。

イメージが悪化したのは、戦後です。深刻な米不足を背景に、もろみに大量のアルコールや糖類を加えて量を水増しする「三倍増醸酒(三増酒)」が広まりました。名前の通り、元の量のおよそ3倍にまで増やせる造り方で、これが「アル添=薄めた安酒」というイメージの元になりました。

この三増酒は、2006年の酒税法改正で終わりを迎えます。改正によって、醸造アルコールなどの副原料の重量が米(麹に使う米を含む)の重量の50%を超えると、清酒と名乗れなくなりました。今、酒屋に並んでいる清酒の中に、三増酒はもう存在しません。ただし造り方そのものは残っていて、今はリキュールなど清酒以外の分類で売られています。清酒の棚からは外れた、ということです。今のアル添は、上限10%という別のルールで動く、まったく別物です。

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ここまで書いてきて、僕の答えはこうです。ラベルに「本醸造」や「吟醸」といった特定名称の字が並んでいれば、原材料欄の「醸造アルコール」は、安心して手に取っていい印です。

純米もアル添も、造り方が違うだけの、対等な選択肢です。米の旨みをじっくり味わいたい日は純米を選べばいい。香りの立った軽快な一杯が飲みたい日は、むしろ本醸造や吟醸を選ぶ理由になります。

次に原材料欄で「醸造アルコール」を見つけたら、棚に戻す前に一度、香りを確かめてみてください。そこにあるのは、蔵が香りを引き出すために選んだ技術の跡です。


この記事を書いた人

藤本裕介

広島在住。映像の仕事のかたわら日本酒にどハマりし、いつか自分の酒を仕込みたくて、蔵を訪ね歩いています。飲み手として、半歩先の楽しみ方を書いています。

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