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にごり酒とどぶろくの違いは、「こした」かどうかの一点です

横棒から吊るした酒袋からもろみがしたたり、下の桶に白く濁った酒がたまる様子と、隣に置いた朱色の猪口の和モダンイラスト

白く濁った日本酒の多くは、どぶろくではありません。棚に並んでいる白い酒のほとんどは「にごり酒」で、酒税法の上では、にごり酒は清酒、どぶろくは清酒の外にいる別の酒です。

見た目はそっくり。原料も、米と米こうじと水で同じ。それでも法律上の扱いは違います。分かれ目はたったひとつ、「こした」かどうかです。

酒税法の「清酒」は、こしてあることが条件

酒税法の第3条は、清酒をこう定めています。米、米こうじ及び水を原料として発酵させて、こしたもの。これに、清酒かすなど政令で決められた物品を加えて造った酒も含まれ、いずれもアルコール分が22度未満のものです。

ここで効いてくるのが「こした」の3文字です。国税庁の法令解釈通達では、「こす」とは、その方法のいかんを問わず、酒類のもろみを液状部分とかす部分とに分離する全ての行為をいう、と説明されています。目の細かい布で絞っても、目の粗い網でざっと分けても、液体と粕に分けた時点で「こした」ことになる。逆に言えば、どんなに丁寧に造っても、こしていなければ清酒とは呼べません。

にごり酒は、目の粗い布でこした清酒

にごり酒の正体は、この「こし方」にあります。地酒蔵元会の用語集によると、にごり酒は、もろみを目の粗い布や網で搾ったときに出る白く濁った酒のこと。粗い目を通して米の粒や酵母が液体に残るから白く濁るわけですが、液体と粕は分けている。だから通達の言う「こす」に当たり、酒税法上は清酒です。

清酒である以上、特定名称酒の記事で書いたルールもそのまま適用されます。純米酒の要件を満たしていれば「純米にごり酒」、吟醸の要件を満たしていれば「にごり吟醸」と名乗れる。白く濁っていても、ラベルの読み方は透明な酒と同じです。

同じ用語集には、にごり酒は生酒(活性酒)であることが多い、ともあります。生酒なら、生酒の記事で書いたとおり、裏ラベルの注意書きを確かめて、冷蔵庫で保管するのが基本です。

にごり酒とどぶろくを5つの項目で比べた図。原料はどちらも米・米こうじ・水。「こす」工程は、にごり酒が目の粗い布や網でこす、どぶろくはこさない。酒税法の品目は、にごり酒が清酒、どぶろくがその他の醸造酒。純米・吟醸などの特定名称は、にごり酒は要件を満たせば名乗れ、どぶろくは清酒ではないので名乗れない。造り手は、にごり酒が清酒の製造免許を持つ蔵、どぶろくはその他の醸造酒の製造免許を持つ蔵のほか、どぶろく特区で自分の米を使う農業者。図の下に「違いは『こした』かどうかの一点」と添えている

どぶろくは、酒税法のどこに入るのか

一方のどぶろくは、発酵したもろみをそのまま飲む酒です。新潟県のどぶろく特区の説明では、濁酒とは、米、米こうじ及び水等を原料として、こさないもの、と書かれています。こしていないので、酒税法の清酒の定義から外れます。

では何になるのか。酒税法の第3条には「その他の醸造酒」という品目があって、穀類や糖類などを原料に発酵させた酒類のうち、清酒や果実酒などに当たらないもので、アルコール分が20度未満、エキス分が2度以上のもの、と定められています。米を発酵させてこさなかったどぶろくは、ふつうここに入ります。瓶のラベルの「品目」の欄を見ると、にごり酒なら「清酒」、どぶろくなら「その他の醸造酒」と書いてある。見分け方としては、これがいちばん確実です。

どぶろくのほうが素朴で元祖っぽく聞こえますが、法律上は逆で、にごり酒のほうが「日本酒」の本流にいて、どぶろくは別の枠にいる。

どぶろくが珍しいのは、免許のハードルのせい

こさないだけなら、どぶろくのほうが簡単そうに思えます。それなのに酒屋でほとんど見かけないのは、造る側の事情です。

お酒を造るには、品目ごとに酒税法の製造免許が必要です。どぶろくなら「その他の醸造酒」の免許で、免許なしに家で米を発酵させてどぶろくを造れば、それだけで法律違反になります。しかもこの免許には年間の最低製造数量の基準があって、酒税法では、その他の醸造酒は年間6キロリットル。1年間に6,000リットル以上を造る見込みがないと、免許が下りません。一升瓶でおよそ3,300本です。農家が自分の田んぼの米で少しだけ仕込む、という規模では、そもそも免許の入り口に立てなかったわけです。

ここに穴を開けたのが、構造改革特区の「どぶろく特区」です。遠野市や新潟県の説明によると、農家民宿や農園レストランのように、自分の営業場で酒を飲ませる業を併せて営む農業者が、自ら生産した米を原料に濁酒を造る場合には、この最低製造数量の基準を適用しない、という特例です。新潟県内だけで11の計画が認定され、令和3年2月末の時点で14の製造者(3法人を含む)が免許を取っています。国税庁も、特区で免許を取るための手引を出しています。

つまり特区のどぶろくは、米を作っている土地で、その土地の人が出す酒です。酒屋の棚で探すより、特区のある地域の民宿や直売所で見つかるほうが早い。旅先で出会う酒、と考えておくのがちょうどいいと思います。

白く濁った酒を前にしたら、まずラベルの品目欄を見る。「清酒」とあればにごり酒で、純米や吟醸の字もそのまま読める。「その他の醸造酒」とあればどぶろくで、それはたぶん、その土地でしか飲めない一杯です。こしたか、こさなかったか。その一点が、2つの白い酒を分けています。


この記事を書いた人

藤本裕介

広島在住。映像の仕事のかたわら日本酒にどハマりし、いつか自分の酒を仕込みたくて、蔵を訪ね歩いています。飲み手として、半歩先の楽しみ方を書いています。

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