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精米歩合の数字は、小さいほど良い酒のしるしではありません

外側を少しずつ削られていく米粒を三つ並べ、右に朱色のお猪口を置いた和モダンイラスト

酒屋の棚で、ラベルの精米歩合だけを見比べて、いちばん数字の小さい瓶を手に取ったこと、ありませんか。僕はあります。50%より40%、40%より35%。数字が小さいほど手間がかかっていて、高いぶん旨いはずだと思い込んでいました。

香りは華やかで、たしかに旨い。でも、いつもの塩辛や焼き魚を並べた食卓だと、酒だけが上品すぎて浮いて感じる。そういう夜は珍しくないはずです。その経験が重なると、この数字は「良い酒の順位」を示すものではないらしい、と思えてきます。

数字が示すのは、削って残した量だけ

まず定義から。国税庁の「清酒の製法品質表示基準」では、精米歩合は、玄米からぬかや胚芽などの表層部を取り去った白米の重さが、もとの玄米の重さに対してどれだけの割合かを指す、と決められています。精米歩合60%なら、玄米の外側4割を削って、残った6割で酒を造る。50%なら半分を削り落としています。

つまりこの数字は、削った手間の量、言い換えれば「米のうち、どれだけを酒に使わなかったか」の記録です。数字が小さいほど、同じ量の酒を造るのに多くの玄米がいる。値段が上がるのは当然で、そこに嘘はありません。

ただ、「たくさん削った=旨い」と直結させるのは飛躍です。何を削っていて、削るとどうなるのかを知ると、この数字の見え方が変わります。

米粒の断面を4つ並べ、精米歩合100%(玄米)・70%・60%・50%で、削られて残る白米の部分がどれだけ小さくなるかを示した図。表層部にたんぱく質が多いことと、本醸造は70%以下、吟醸は60%以下、大吟醸は50%以下という国税庁の基準、純米酒には精米歩合の規定がないことを添えている

削っているのは、表層に多いたんぱく質

玄米の外側には、たんぱく質が集まっています。広島県立総合技術研究所(食品工業技術センター)の資料では、酒米のたんぱく質は玄米の表面とその下層に偏っていると説明されていて、これが多すぎると酒の雑味の原因になります。だから外側を削る。削るほど、残るのは中心のでんぷんに近づき、酒は雑味の少ない、きれいな方向へ寄っていきます。

酒類総合研究所の解説によると、酒造り用の米(醸造用米)は食用米に比べてたんぱく質が少なく、しっかり精米できる大粒で、米粒の中央に「心白」と呼ばれる白く不透明な部分を持つのが特徴です。高精白しやすく、麹が造りやすく、香りの高い繊細な酒質に向く、とあります。精米歩合の小さい酒で香りや軽やかさが前に出やすいのは、雑味のもとが減るぶん、そちらが目立つようになるから、と考えると分かりやすいです。

ここで立ち止まってほしいのは、削られているたんぱく質が、雑味のもとであると同時に、米の旨みのもとでもあるという点です。たんぱく質は造りの過程で分解されてアミノ酸になり、酒の旨みやコクの一部として残ります。実際、広島県の試験でも、たんぱく質を効率よく削った米で造った酒は「低アミノ酸度」で、きれいな味わいと後味のすっきりさが評価されています。削り込むほど酒は軽く上品になりますが、そのぶん米の旨みや厚みは引いていく。どちらを取るかは好みの問題で、優劣の話とは別です。

純米酒から精米歩合の決まりが消えた年

表示基準の歴史にも、「削るほど良い」とは限らないことを示す話が残っています。

特定名称酒の記事で、純米酒だけには精米歩合の規定がない、と書きました。もともとはあったんです。純米酒にも「精米歩合70%以下」という条件が付いていた時期がありました。それが平成15(2003)年10月の告示改正で外れ、翌2004年1月1日から施行されています。

理由がまた分かりやすくて、酒類総合研究所が当時まとめた研修資料によると、醸造設備や製造技術の進歩によって、精米歩合70%以下という条件に当てはまらない白米で造っても、純米酒の品質に匹敵する酒が造れるようになったから、というものでした。そこまで削らなくてもちゃんとした酒はできる、と国が認めた改正だと僕は読んでいます。同じ改正で、こうじ米の使用割合15%以上という条件が特定名称酒に加わっていて、削る量よりも造り方のほうに重心を移した形になっています。

いまは、精米歩合80%と90%の2種類がある千葉の寺田本家の純米酒「香取」のように、削らない数字を堂々と表に出している純米酒もあります。削らずに残した外側の旨みを、そのまま個性にしている酒です。精米歩合が小さいことだけを価値とする見方では、こういう酒の面白さを取りこぼします。

なお、特定名称酒では、精米歩合の表示は今も義務です。原材料名の近くに精米歩合を併せて表示することになっています。純米酒に規定はなくても、数字自体はラベルに載っている。だから、読む側の読み方が問われます。

同じ数字でも、削り方で中身が変わる

もうひとつ、数字を絶対視できない理由があります。同じ精米歩合でも、削り方によって残る中身が違うんです。

ふつうの精米は、米粒を丸く磨いていきます。ところが、たんぱく質は米粒の長さの方向だけでなく、厚みの方向でも表面の近くに多い。丸く磨く方法だと、この厚み方向の表層が十分に削れません。そこで、長さの方向と同時に厚みの方向からも削って、平たい形に仕上げる「扁平精米」という方法があります(丸と平たい形の中間に仕上げる「原形精米」という方法もあります)。

東広島市に本社を置く精米機メーカーのサタケが2018(平成30)年に新型の精米機を発売し、広島県立総合技術研究所の食品工業技術センターがサタケとの共同研究で、2018年度から2020年度にかけて試験醸造を重ねました。県の資料によると、通常の精米ではたんぱく質の含有量を4%まで下げるのに酒米の外側を50%削る必要があったのに対し、扁平精米では30%削るだけで同程度のたんぱく質量の白米が得られたそうです。

つまり、扁平精米で精米歩合70%まで削った米と、通常の精米で50%まで削った米とで、雑味のもとの残り方がほぼ同じ、ということが起こりえます。ラベルの数字は削った重さを正直に示していますが、どこを削ったかまでは教えてくれません。広島の酒を追いかけている身としては、この技術が地元発なのが少し嬉しいところです。

数字は、方向を知るために見る

……と、ここまで書いておいて何ですが、僕もいまだに、35%と書かれた瓶を見ると一瞬そわそわします。削った量の分だけ蔵の手間と米が入っていることは事実で、その贅沢さ自体を楽しむのは、まったく悪いことじゃありません。

ただ、数字の読み方は変えたほうがいいと思っています。その酒がどちらの方向を向いているかを知る目印として見る。数字が小さければ、香りが立って軽やかで、きれいな方向。大きければ、米の旨みや厚みを残した、食事に寄り添う方向。数字は目安で答えは自分の舌で出す、という話は特定名称酒の記事の締めにも書きましたが、精米歩合はその典型です。

だから棚の前では、まず今夜の肴を思い浮かべるのがおすすめです。焼き魚や煮物の日なら、精米歩合は60〜70%あたりの、旨みの残った純米酒。つまみを用意しない日や、最初の一杯を香りで楽しみたい日なら、50%以下の大吟醸系。酒屋での見方の記事で書いたように、ラベルで見る場所は多くなくていい。精米歩合はそのひとつとして、削った量の目盛りとしてだけ、静かに参考にするのがちょうどいい距離感です。


この記事を書いた人

藤本裕介

広島在住。映像の仕事のかたわら日本酒にどハマりし、いつか自分の酒を仕込みたくて、蔵を訪ね歩いています。飲み手として、半歩先の楽しみ方を書いています。

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