チーズで日本酒が苦く感じたら、甘みのある純米酒に替えてみる
つまみがチーズしかない夜に、手近な日本酒を注いで、口の中が妙に苦くなったこと、ありませんか。チーズはワインのもの、日本酒には合わない。その一晩で決めてしまった人も多いと思います。僕もしばらくそう思い込んでいました。
ただ、調べてみると話は逆で、チーズは日本酒の守備範囲にきちんと入っています。苦く感じたなら、まず疑うのは酒の辛さと度数です。順番に書きます。
中央会のタイプ分けだと、チーズは「コクのあるタイプ」の守備範囲
日本酒造組合中央会のサイトは、日本酒を香りの高低と味の濃淡で4つのタイプに分けて、タイプごとに相性のいい料理を挙げています。鍋の記事でも使った分け方ですが、ここで効いてくるのは「コクのあるタイプ」の説明です。鶏肉、豚肉、牛乳などの旨味を生かした料理が好相性、と書かれていて、牛乳の名前がはっきり出てきます。乳製品であるチーズは、この守備範囲に入ります。熟成タイプについても、強い旨味を味わう高タンパクな食材の料理が好相性、とあって、熟成したチーズはこちらに重なります。
理屈の側は、沢の鶴の解説が分かりやすくて、日本酒もチーズも発酵食品で、どちらも旨みのもとになるアミノ酸が多い。合わせると旨みの相乗効果が出る、という説明です。秋の肴の記事で、きのこの肴には「旨みで返す」と書いたのと同じ構図で、チーズは旨みの肴の一種だと考えれば、日本酒と合わないほうが不思議です。
では冒頭の苦さは何だったのか。候補のひとつに、酒の辛さと度数があります。
辛口だとチーズの苦みが立ちやすい、という研究がある
茨城県産業技術イノベーションセンターという県の研究機関が、県産の日本酒とイタリアの代表的なチーズの相性を調べています。対象は茨城の酒と、評価に使った特定のチーズなので、世の中のチーズすべてに当てはまると言い切るつもりはありません。それでも、読み方の手がかりにはなります。
令和6年の成果集によると、日本酒を成分分析でタイプ分けし、官能評価の結果と照らし合わせたところ、グルコース濃度が高い甘口の日本酒では、評価に使ったチーズの苦みを感じにくく、相性がよかった。翌年の成果集ではもう一歩踏み込んでいて、グルコース濃度が高いほどチーズの苦みを感じにくく、アルコール濃度や日本酒度が高いほど苦みを感じやすい傾向が確認された、とあります。日本酒度が高い、つまり辛口の記事で書いた意味での辛口で、アルコールも高めの酒ほど、チーズの苦みが立ちやすい、という傾向です。
同じ研究では、仕込み水のカルシウムやマグネシウムがチーズの旨みや余韻に影響することも分かったそうで、この結果をもとに「チーズに合う日本酒」のレシピが作られ、県内の蔵で試験醸造までされています。できた酒は、しっかりした甘みと酸味があって、チーズの塩味を引き立てる味わいだった、と報告されていて、純米酒として商品にもなっています。
苦みが気になった夜に試す方向は、これで決まります。チーズに合わせるなら、甘みと酸のある酒です。
チーズの熟成度に、酒の熟成度を揃える
甘みと酸のある酒、と決めたうえで、次はチーズの種類です。ここは蔵元の整理を借ります。沢の鶴の解説では、合わせ方の軸を3つ挙げていて、熟成度を合わせる、チーズの味わいに合わせる、産地を合わせる。いちばん使いやすいのが熟成度です。
熟成の浅いフレッシュなチーズには、同じくフレッシュでキレのある酒。モッツァレラにはスパークリング日本酒やにごり酒、リコッタには香りの立つ吟醸酒が挙がっています。熟成が進んで旨みの強いチーズには、熟成酒やどっしりとした味わいの酒。白カビのカマンベールには純米酒、ハードタイプのミモレットには純米酒のぬる燗や古酒、青カビのスティルトンには生酛系の純米酒、という具合です。生酛・山廃の記事で「酸とコク」が目安と書いた酒が、塩気と旨みの強いチーズの相手として名指しされているわけです。
2つ目の軸にも触れておきます。同じ解説は、脂肪分が高くまったりしたチーズには、口の中をさっぱりさせるスパークリング日本酒や辛口の純米酒を、とも書いています。口をさっぱりさせる役なら、辛口にも出番はある。ただ苦みが気になった夜は、甘みのほうへ寄せる。この2つは両立します。
広島の話も少し。2019年3月付のル・コルドン・ブルーの記事によると、同校の東京校が広島の酒造組合と組んで、その冬にチーズと広島の酒のセミナーを開いています。記事では、スモークチェダーのような味の強いチーズには風味に粗さのある日本酒がよく合い、甘口の酒に甘みのあるチーズを合わせるとデザートのように楽しめる、と紹介されています。広島の酒は、軟水に合わせた独自の製法でクリアで旨みのある酒になっている、とも。味の強さを揃える、甘さを揃える。蔵元の整理と同じ方向です。
冷蔵庫の酒を、今夜のチーズに合わせ直す
ここまでを、コンビニで買えるチーズに落とします。
プロセスチーズやスライスチーズなら、蔵元の解説ではコクと旨みのある純米酒や純米吟醸酒が挙がっています。温度は、中央会の飲み方のページで、コクのあるタイプは10℃から45℃まで適温の幅がいちばん広いとされているので、常温でもぬる燗でも試せます。カマンベールも同じく純米酒。クリームチーズは、同じ解説にある奈良漬を添える食べ方が面白くて、奈良漬の塩気がクリームチーズのコクを引き立てる、という組み合わせです。こちらも純米酒か本醸造酒で。
そして、苦く感じた辛口の処遇です。捨てる必要はありません。チーズの日だけ主役を降りてもらって、飲み残しの記事に書いた燗や台所での使い道に回せばいい。その夜に開けるのは、甘みと酸のある純米酒。冷蔵庫に無ければ、酒屋で「甘みのある純米酒を1本」と頼めば足ります。
今夜のつまみがチーズなら、辛口は一度棚に戻して、純米酒を常温で1杯。苦くなった記憶は、たぶんそれで上書きされます。
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