日本酒が苦手な人と飲む日は、勧めるより先に頼み方を変える
日本酒が苦手な人と飲みに行く日、いちばんやってはいけないのは「これなら飲めるから」と勧めることだと、僕は思っています。理由を書きます。
苦手だと言っている人に一杯飲ませて、「やっぱり無理」を確定させてしまう。日本酒好きがやりがちな失敗で、その日の食卓は気まずくなるし、その人が日本酒に戻ってくる道もひとつ塞がります。勧める前にできることは、頼み方の側にあります。
「苦手」の中身は、だいたい3つに分かれる
ひとくちに苦手と言っても、引っかかっている場所は人によって違います。苦手の理由としてよく挙がるものを、僕なりに分けるとだいたい3つです。
一つ目は、度数。ビールの感覚で飲むと回りが早くて、悪酔いした記憶が残っているタイプです。二つ目は、香り。口に含んだときより、飲み込んだあとに鼻へ抜けてくる、あの日本酒らしい香りが受け付けない。クラフトサケの記事で書いたように、日本酒が苦手な妻は、飲み込んだときに鼻へ抜けるあの香りがないから飲めると言っていました。まさにこのタイプの話です。三つ目は、辛い・きついという思い込み。「日本酒=辛口=喉が焼ける」というイメージだけが先に立っていて、甘いタイプがあることを知らない人は案外多いです。
どのタイプかで、頼むべき一杯が変わります。だから先に、それとなく聞いておく。「日本酒のどこが苦手?」の一言で、その夜の注文はだいぶ楽になります。
度数の壁は数字で見れば納得がいく
日本酒造組合中央会の解説によると、日本酒のアルコール度数は平均で13〜16%。ビールは4〜6%、ワインは12〜15%です。ジョッキを空ける感覚で日本酒を飲めば、同じ量で3倍前後のアルコールが入る計算になります。回りが早いと感じるのは、この差のせいです。
ちなみに酒税法では、清酒はアルコール分22度未満のものと決められています。中央会の分類の解説にあるとおり、搾ったままの原酒は18〜20度もあって、市販の多くの酒はそこに水を加えて度数を整えています。つまり、店で出てくる日本酒は、水を加えて飲みやすく整えた状態で15度前後。それでもビールの3倍前後です。
ここで効いてくるのが、和らぎ水です。中央会は「和らぎ水のすすめ」というページを設けていて、日本酒を飲みながら合間に飲む水のことをこう呼んでいます。合間に水を飲めば深酔いしにくく、酔いの速度がゆっくりになり、口の中もリフレッシュされる、というのが中央会の説明です。特定の銘柄はなく、おいしい水であればよく、蔵の仕込み水を選ぶのもおすすめとあります。
苦手な人と飲む日は、日本酒を頼むときに水も一緒に頼む。最初からそうしておくと、相手にとっても、自分にとっても楽です。日本酒に力を入れている店なら、仕込み水を置いていることもあります。「お水もお願いします」の一言で済むので、遠慮する理由はありません。
一杯目は、日本酒以外でいい
……と、ここまで日本酒側の話を書いてきましたが、僕の考えは意外と単純です。苦手な人の一杯目は、その人が好きなものでいい。
ビールでも、サワーでも、ソフトドリンクでも構いません。自分だけ日本酒を頼めばいいんです。日本酒は一合を頼めば猪口に何杯も注げます。相手が乾杯の一杯を楽しんでいるあいだに、自分の猪口を一口ぶんだけ差し出して「甘めのやつだから、一口どう?」と言えるかどうか。それで十分です。一口なら相手も気軽に受けられるし、無理なら無理で、その場で終わりにできます。
勧めるのは一口まで。相手が一杯頼むのは、「もう少し飲みたい」と言ってからです。この順番を守るだけで、その日の空気はかなり変わります。
試すなら、度数が低くて甘い一杯を、冷やして少しだけ
そのうえで、相手が「一口なら」と乗ってきたときに何を頼むか。ここで前に書いた3つのタイプが役に立ちます。
度数と香りが壁の人には、度数の低いスパークリングタイプが向いています。中央会はアルコール度数10%以下の日本酒を集めた特集ページを作っていて、そこでは低アルコールの日本酒が初心者を意識して造られていること、フルーティーなものや甘いものが多いこと、スパークリングタイプは「しゅわっとすっきり」飲みやすいことが説明されています。5%台の銘柄も並んでいて、この数字はビールと変わりません。
具体的な銘柄を挙げておきます。宝酒造の「澪」は2011年に発売されたスパークリング清酒で、アルコール分は5度。ほどよい酸味とほんのり甘い味わいの発泡性清酒で、300mlの小容量から売られています。宝酒造の発表では、2021年5月の時点で累計7,000万本(300ml換算)を超えていて、それだけ多くの人に飲まれてきた一本です。広島なら、呉の三宅本店の「千福スパークリング」もあります。純米大吟醸をベースにした発泡性の清酒で、アルコール度数は8度。2023年のG7広島サミットの社交夕食会で提供された酒でもあります。
こうした銘柄が店に無いときは、頼み方でカバーします。「香りが華やかで、甘みのあるものを、少しだけ」。辛口の記事で書いたとおり、「辛口ください」は注文としてほぼ機能しませんが、逆に「甘みのあるもの」はちゃんと機能します。辛くてきついという思い込みを持っている人には、この頼み方だけで印象が変わることがあります。
温度は冷やしたものを。燗酒の記事で燗を勧めておいて言うのも何ですが、燗は温めると香りが立ちやすいので、香りが壁になっている人には後回しにするのが無難です。量も、猪口に一杯より少ないくらいでいい。飲み切れなかったぶんは自分が引き取ればいいだけなので、頼む側に損はありません。
日本酒が苦手な人と飲む日は、その人に日本酒を好きになってもらう日ではありません。次も一緒に飲みに行ける関係のまま帰る日です。勧めるのは一口まで。変えるのは頼み方と水の準備だけ。これが僕の答えです。好きになるかどうかは、その人が決めることなので。
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