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日本酒に賞味期限が無いのは法律のせい。目安は製造年月から1年

棚板の上に、背の高い一升瓶と四合瓶2本を並べ、棚の右に朱色の猪口を置いた和モダンイラスト

今日と明日、西条は酒まつりです。月曜の朝には、買い込んだ瓶が台所の床に並んでいるはずです。

そこで毎年出てくる疑問があります。この瓶、いつまでに飲めばいいのか。ラベルを裏返しても賞味期限がどこにもない。書き忘れでも、蔵の手抜きでもありません。書かなくてよい、と決まりで定められているからです。僕も日本酒を飲み始めた頃は、製造年月の欄を見たことすらありませんでした。今日はその決まりと、代わりに何を見て、どこに置いておけばいいかを書きます。

賞味期限が無いのは、食品表示基準が「省略できる」と決めているから

食品の期限表示を決めているのは、食品表示法にもとづく「食品表示基準」という内閣府令です。この基準には、消費期限または賞味期限の表示を省略できる食品の表があって、でん粉、チューインガム、砂糖、食塩、氷といった品目と並んで「酒類」が入っています。条文に理由は書かれていません。ただ、並んでいる品目を見ると、長く置いても急には傷まないものばかりで、日本酒もそのグループに入れられている、というのが僕の読み方です。

その代わりに酒の側で決めているのが、国税庁の「清酒の製法品質表示基準」です。しぼりたての記事でも触れましたが、この基準の製造時期は「販売する目的をもって容器に充填し密封した時期」で、瓶に詰めた年月のこと。現在の基準では任意記載事項に置かれていて、沢の鶴の解説によると2023年1月から任意に変わっています。そして火入れをしていない生酒には、保存または飲用上の注意事項を表示することが求められています。生酒の瓶の裏に「要冷蔵」とあるのは、この決まりによるものです。ただし要冷蔵の表示そのものは、火入れを一度した酒や吟醸酒にも付きます。生酒かどうかは「生酒」の字で見てください。

つまり多くの瓶には、期限の代わりに「詰めた時期」が書いてあり、生酒なら「扱い方の注意」が足されている。見る場所はこの2つです。製造年月が見当たらない瓶は、買った店で聞くか、早めに飲む側に回します。

未開封の目安は「製造年月から1年」。一度も火入れしない生酒だけが短い

では製造年月から何か月までおいしく飲めるのか。ここは法律に数字がないので、蔵元が自分の商品について公表している目安を見るしかありません。

月桂冠のQ&Aでは、本醸造酒や普通酒が製造年月から約1年、吟醸酒・純米酒・生貯蔵酒が約10か月。生酒は約8か月ですが、これは常温で流通できる同社の商品についての数字です。いずれも未開栓で、光が当たらない20度前後の涼しい場所に置いた場合の期間とされています。沢の鶴の解説では、通常の日本酒が約1年、生酒が約9か月、一度火入れした生貯蔵酒は約1年。菊正宗のFAQも、本醸造酒や普通酒などの一般商品は製造から約1年間おいしく飲める、としています。

日本酒の未開封の目安を火入れの回数ごとに示した図。火入れ2回の酒(本醸造酒・普通酒、多くの純米酒・吟醸酒)は製造年月から約1年、吟醸酒・純米酒を約10か月とする蔵もある。火入れ1回の生貯蔵酒は約10か月から1年で、生詰め酒ともに買ったら冷蔵庫へ。火入れなしの生酒・生原酒は、大手2社の公表値で約8〜9か月、要冷蔵の生酒は蔵の表示に従ってもっと短く見る。いずれも蔵元が公表する目安で、法律にこの数字はない。開封後は1か月以内を目安に、できれば冷蔵庫で。ひやおろしは1〜2週間、生酒はさらに早めに。製造年月は瓶に詰めた時期で、搾った時期とは限らない、と添えている

蔵によって数か月の幅はありますが、読み方は揃います。火入れした酒は製造年月から1年弱、一度も火入れしない生酒だけが短い。生酒の記事で書いたとおり、生酒は酵素が生きたままなので変わりやすいからです。

気をつけたいのは、ラベルに要冷蔵とある生酒です。そこに8か月という数字を当てはめないでください。ラベルの指示どおり冷蔵して、目安はもっと短く見てください。火入れの酒も、まずは瓶の製造年月を確かめて、そこから1年を数える。推測で動くより、この順番が確実です。

目安を過ぎた酒は、色と香りで決める

目安を過ぎたらどうなるのか。酒類総合研究所のQ&Aに、清酒が古くなると酢になるのか、という質問があります。答えは、ならない。酢酸菌はアルコール分10%以上では生育できないので、低アルコールの酒を除けば、アルコール分15度前後の通常の清酒は古くなっても酢にはならないと考えられる、とあります。菊正宗のFAQも、未開封の日本酒はアルコールが多いので腐ることはなく、飲んでも体に害はない、と書いています。未開封なら、という条件つきです。開封後はアルコール分が下がって雑菌が増える可能性がある、と同じFAQにあります。

変わるのは色と香りです。月桂冠のQ&Aによると、色が黄色や茶色に寄るのは光や温度による熟成で、衛生面や健康への影響はないと書かれています。日本酒造組合中央会の用語集には、長時間日光にさらされた酒に出る「日光臭」という言葉もあって、光が香りを変える犯人のひとつだと分かります。一方で同じ月桂冠のQ&Aは、火落菌という乳酸菌が増えて白く濁ったときは飲まないように、とも書いています。にごり酒のように最初から白い酒は別で、もともと澄んでいた酒が濁ってきた場合の話です。

判断の仕方は菊正宗のFAQにある手順が実用的で、透明なグラスに注いで色と香りを確かめる。それだけです。色が濃くなって香りが変わっていても傷んでいるわけではないので、口に合わなければ煮物や、飲み残しの記事で書いた使い道に回せばいい。澄んでいた酒が白く濁っていたり、明らかに異臭がしたりするときだけ、処分します。

酒まつりの瓶は、「生」の字で3段に分ける

ここまでを、月曜の台所に戻して並べ直します。瓶を3段に分けます。

1段目は、一度も火入れをしていない生酒と生原酒(生酛や生一本の「生」は火入れと関係ないので別です)。未開封でも冷蔵庫に入れて、目安を待たず、年内のうちに飲みます。2段目は、火入れが1回の生詰め酒・生貯蔵酒。秋のひやおろしも生詰めなので、ここに入ります。こちらも買って帰ったら冷蔵庫へ。3段目が、火入れを2回した通常の酒です。中央会の解説では理想の保管条件は1〜8℃で、日光から遮断された場所とされています。ただ一升瓶が冷蔵庫に入らないのは当たり前なので、現実には、日光が当たらず、月桂冠のQ&Aが目安にする20度前後を超えない涼しい場所を探します。北側の押し入れや床下収納がそれで、夏をまたぐなら、夏場に30度近くなる部屋は避けます。

飲む順番は、1段目から。目安の短い酒から開けていけば、製造年月を気にする場面はほとんどなくなります。開けたあとは、菊正宗のFAQが言う1か月以内を目安に、できれば冷蔵庫で。火入れ1回のひやおろしは1〜2週間、生酒はもっと早めに。

月曜の朝にやることは、3つだけです。瓶の製造年月を見る。「生」の字で3段に分けて、冷蔵庫と涼しい押し入れに振り分ける。短い酒から開ける。賞味期限が無いのは決まりの話で、目安は自分で数える。その一点だけ覚えておけば、床に並んだ瓶を前に焦ることはなくなります。


この記事を書いた人

藤本裕介

広島在住。映像の仕事のかたわら日本酒にどハマりし、いつか自分の酒を仕込みたくて、蔵を訪ね歩いています。飲み手として、半歩先の楽しみ方を書いています。

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