しぼりたてに国の定義はない。新酒は「生酒」の字と製造年月で選ぶ
ラベルの「しぼりたて」や「新酒」という言葉には、国の表示基準に定義がありません。
国税庁の「清酒の製法品質表示基準」は、原酒・生酒・生貯蔵酒・生一本・樽酒といった言葉について、どんな酒なら名乗れるかを決めています。ところが、その並びに「新酒」も「しぼりたて」もない。つまり冬の酒売り場でいちばん目立つあの表示は、蔵が自分の言葉で書いているものです。嘘だと言いたいわけではありません。ただ、言葉の重みを知ったうえで、ラベルの別の場所を見る必要がある、という話です。
「新酒」の線引きは暦、「しぼりたて」は状態の言葉
まず新酒から。日本酒造組合中央会の用語集では、新酒は「古酒に対する言葉で、その年に造った酒」、狭い意味では「その年にとれた新米で造った酒」とされています。熟成が進んでいないので、新酒香と呼ばれる特有の香りがする、ともあります。
では「その年」はいつ始まるのか。同じ用語集の古酒の項に答えがあって、酒造りが主に冬だけだった頃は火入れをしていない酒が新酒、火入れをして貯蔵した酒が古酒。造りが長期化してからは、酒造季節か酒造年度を区切りにして、今期に造った酒を新酒、それ以前の酒を古酒と呼ぶ、と説明されています。酒造年度は7月1日から翌年6月30日までの1年で、BYと略します。日本酒の日の記事で書いたとおり、この区切りは昭和40(1965)酒造年度から7月始まりです。
一方のしぼりたては、状態を表す言葉です。酒類総合研究所の用語リストでは、しぼりたてに「搾ったばかりの酒」という意味の英語が当てられています。表示基準にも、何日以内といった決まりはありません。搾ってすぐ瓶に詰めた、という蔵の説明だと受け取るのが正確です。
搾りの最初に出る白い酒が「荒走り」
しぼりたてと並んで、冬のラベルには「荒走り」の字もよく出てきます。こちらは搾りの工程の言葉です。
中央会の用語集の上槽(じょうそう)の項が詳しくて、昔ながらの搾りでは、醪(もろみ)を酒袋に詰めて槽(ふね)という箱に並べて積みます。このとき最初に出てくる白く濁った酒が荒走り。袋を積み終えてから3時間ほどは、袋の自重できれいな酒が自然に出てきて、この間の酒を水槽(みずぶね)と呼ぶ。そのあと押蓋をのせて圧搾を始め、翌日、袋を積み替えてもう一度搾るのが責槽(せめぶね)。ここから出る酒が責め、という順番です。
搾ったばかりの酒が白く濁っているのは、滓(おり)が混ざっているからです。用語集によると、上槽したばかりの清酒は白濁していて、数日静かに置くと底に白い沈殿物がたまる。この沈殿物が滓です。しぼりたてや荒走りの瓶がうっすら濁っていたり、底に白いものが沈んでいたりするのは、この滓を取りきる前に詰めているから。濁りは、搾りたての証拠として読めます。
しぼりたてを選ぶなら、見るのは「生酒」の字と製造年月
ここからが選ぶときの話です。しぼりたてには、火入れをしていない生酒で出るものが目立ちます。酒類総合研究所のQ&Aによると、清酒はふつう貯蔵時と出荷時の2回火入れをしますが、生酒は一度も火入れをしない。だからしぼりたてならではのフレッシュな香味が楽しめる、とあります。中央会の用語集では、火入れは清酒を60〜65℃に加熱して殺菌することで、殺菌だけでなく酵素を壊して酒質を安定させる働きもある、と書かれています。
裏を返すと、生酒は酵素が生きたまま。酒類総合研究所のQ&Aも、生酒は酵素が活性な状態で酒質が変わりやすいので、冷暗所に保存し、開封後はできるだけ短期間で飲むことを勧めています。生酒の記事で書いた扱いそのままで、しぼりたての瓶を買ったら、帰ってすぐ冷蔵庫です。
なのでラベルで見る場所の1つ目は「生酒」の字です。国の基準で定義された言葉なので、書いてあれば火入れなし、書いてなければ火入れしている可能性を疑う。「生原酒」も生酒の仲間で、「生貯蔵酒」は一度火入れをした別物です。「しぼりたて」の字だけでは、そこは分かりません。
2つ目は製造年月です。ここに落とし穴があって、国税庁の表示基準では、製造時期は「販売する目的をもって容器に充填し密封した時期」です。搾った時期とは限りません。火入れして貯蔵した酒を冬に瓶詰めすれば、製造年月は冬になります。製造年月が新しいことは、搾りたてであることの証明にはならない。逆に、生酒の表示があって製造年月が直近なら、搾ってから日が浅い可能性が高い、と読めます。瓶にBYの表記があれば、今期の酒かどうかはそこで確定します。
新酒の香りは燗で強く出る。そして夏をはさんだ姿がひやおろし
最後に味の話を少しだけ。中央会の用語集には、新酒香は燗をすると強く感じられる、とあります。燗にすると、あの若い香りが一段と強く立つわけです。しぼりたての生酒は、まず冷やしたまま飲んで、香りと微かな荒さを確かめるのが順当だと僕は思っています。
そしてこの酒には続きがあります。酒類総合研究所のQ&Aによると、生酒はひと夏越した秋口に、酵素的な酸化でヘーゼルナッツのような木の実の香りが出て、刺激的な荒さや渋みは減り、甘みと旨み、濃さが増すそうです。ひやおろしの記事で書いたひやおろしは、春に一度火入れをしてから夏を越す酒なので、変化は生酒より穏やかです。それでも、中央会の用語集がひやおろしの項で書くとおり、新酒の荒さが消えてまるみが出る方向は同じ。冬のしぼりたてと秋のひやおろしは、同じ酒造年度に造った酒の、夏をはさんだ2つの顔です。
僕の答えはこうです。「しぼりたて」「新酒」「荒走り」は蔵の言葉で、国の表示基準に定義はない。買うときは、定義のある「生酒」の字と製造年月を見る。生酒なら冷蔵庫へ直行して早めに、まずは冷やしたまま。それで冬の新酒を大きく外すことはないはずです。秋まで覚えていられたら、同じ蔵のひやおろしを探してみてください。冬に飲んだ若い味と比べると、夏を越した酒の方向が舌で分かります。
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