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飲み残した日本酒は、順番を変えればまだ3回おいしい

半分ほど残った日本酒の瓶と、朱色の猪口、片手鍋を並べた和モダンイラスト

冷蔵庫の奥から、半分残ったままの四合瓶が出てきたこと、ありませんか。開けたのは2週間くらい前。注いでみると、買った日のあの香りはもう薄い。捨てるのは惜しいから、とりあえず煮物にどぼどぼ入れて、それでおしまい。

僕もやっていました。ただ、この順番はもったいない。開けて日がたった酒には、料理に回す前に2回、最後に台所でもう1回、おいしく使える余地があります。今日はその3回の話です。

1回目は、燗にして「別の酒」として飲む

四合瓶の記事で書いたとおり、日本酒は栓を開けたときから空気に触れて、香りや味が少しずつ変わっていきます。華やかな香りは落ち着き、角が取れて、良くも悪くもおとなしくなる。この変わった酒を、開けたての酒と同じ飲み方で評価するから「ダメになった」と感じるんです。

だからまず、温度を変えます。日本酒造組合中央会の解説では、燗には日向燗から飛びきり燗まで段階があって、人肌燗(35〜40℃)から上燗(45〜50℃)あたりが一般的においしいとされています。同じ解説で、ぬる燗は酒の香りがもっとも豊かになり、味わいにふくらみが出る温度だとも書かれています。落ち着いてしまった香りを、温度でもう一度起こしてやるイメージです。ぬる燗の記事で書いた湯煎で、まずは人肌からぬる燗の温度に。

飲み残しの1回目は、まず燗から。鍋とお湯だけで、香りと味の出方が変わるかをその場で確かめられます。

2回目は、氷と炭酸で軽くする

燗にしても今ひとつなら、今度は逆に冷やして、薄めます。ここも中央会の「日本酒のおいしい飲み方」に載っている方法です。

ひとつは燗ロック。氷を満たしたグラスに、やや熱めの燗酒を注ぐ飲み方で、グラスを揺すれば一気に冷えて、ふつうのロックより軽やかな味になると説明されています。もうひとつは日本酒ハイボール。グラスにたっぷり氷を入れ、日本酒をグラスの半分まで注いで、ソーダを同量足すだけ。中央会は夏向きとしつつ、乾杯や食事の最初の一杯におすすめとしているので、季節を問わず使えます。

よく冷やした酒は香りがあまり立たない、と中央会も書いています。香りの抜けた酒には、それがかえって好都合です。燗ロックなら軽やかに、ハイボールなら炭酸の爽快さで、香りの抜けた部分が気になりにくくなる。これで一本の後半の行き先は、だいたい決まります。

飲み残した日本酒の使い道を3段階で示した図。1回目は燗にする(人肌燗35〜40℃から上燗45〜50℃、ぬる燗は香りがもっとも豊かになる温度)、2回目は燗ロックか日本酒ハイボール(氷をたっぷり、日本酒とソーダを同量。よく冷やすと香りが立ちにくいので、香りの抜けた酒に向く)、3回目は料理に使う(宝酒造が挙げる料理用清酒の5つの効果は、臭みを取る、コクと旨みを足す、素材をやわらかくする、味をしみこませる、おいしさを閉じ込める)。塩入りの料理酒と違って塩加減は自分で決められる、と添えている

3回目で、ようやく台所へ

それでも残ったら、ここで初めて料理に使います。ただし「余ったから入れる」のではなく、何が起きるかを知って入れると、同じ一本でも料理の仕上がりが変わります。

宝酒造は、料理用清酒の効果を5つ挙げています。素材の臭みを取って香りをつけること、コクと旨みをつけること、素材をやわらかくすること、味をしみこみやすくすること、おいしさを閉じ込めること。このうち臭みが取れる理由のひとつは、アルコールが揮発するときに臭いのもとになる物質も一緒に飛ばしてくれるから。味がしみこみやすくなるのは、アルコールの分子が小さく、ほかの成分より先に食材の内側へ入っていくから。どちらもアルコールの働きなので、飲むための清酒にも当てはまります。香りによるマスキングは、香りが抜けたぶん弱まるはずです。それでも、臭みを飛ばす働きと味をしみこませる働きは、アルコールがあるかぎり残っています。

ここでひとつ、スーパーの「料理酒」との違いを押さえておきます。宝酒造の解説では、料理用の調味料は、酒税法上の酒類(清酒・合成清酒)と、食塩を加えて飲めないようにした食品の「醗酵調味料」に分かれます。後者は酒税がかからないぶん値段は手頃ですが、食塩が入っているので、使う量や塩加減の調整が難しくなる。一方、飲み残しの日本酒は塩の入っていない清酒そのものなので、塩は自分で決められます。塩入りの料理酒と比べれば、そのぶん扱いやすい素材です。

捨てる判断は、匂いと一口で

3回の使い道を書きましたが、ひとつだけ線引きを。注いで匂いを嗅いで、明らかに変な匂いがしたら、その時点で口に入れずに捨てる。匂いが大丈夫でも、一口飲んで嫌な味がするなら、料理にも使わないほうが無難です。そういう酒は迷わず流しに捨てて、次からは生酒の記事で書いたように、火入れの回数と保管の仕方を意識して買うほうが早いです。

そして、「もったいないから飲み切る」はやらなくていい。残った酒を無理に空ける必要はなくて、燗やハイボールにして少しずつ、料理に少しずつ、で十分です。

僕の答えはこうです。飲み残しは、順番を変えれば3回楽しめる素材です。燗にして、氷と炭酸で割って、最後に台所へ。冷蔵庫の奥の四合瓶を見つけたら、煮物に入れる前に、まず湯煎の鍋を火にかけてみてください。


この記事を書いた人

藤本裕介

広島在住。映像の仕事のかたわら日本酒にどハマりし、いつか自分の酒を仕込みたくて、蔵を訪ね歩いています。飲み手として、半歩先の楽しみ方を書いています。

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