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手土産の日本酒は、値段より「相手を困らせない」で選ぶ

紙袋と、朱色の帯を巻いた化粧箱、箱から出した四合瓶と猪口を並べた和モダンイラスト

手土産に日本酒を持っていくなら、値段や有名さより、相手を困らせないことを最優先にすべきだと僕は思っています。

もらってうれしい酒と、もらって困る酒は、味の良し悪しで分かれていません。分かれるのは「もらった側がそのあと何をしなければいけないか」です。すぐ冷蔵庫に入れないといけない、冷蔵庫に入らない、そもそも飲まない。こういう手間を相手に押しつける酒は、どれだけ高くても手土産として弱い。逆に言えば、条件さえ押さえれば、派手な大吟醸でなくても外しません。条件は5つです。

まず、相手が日本酒を飲む人かどうか

当たり前のようで、いちばん忘れられがちな条件です。相手が日本酒を飲まないなら、日本酒を持っていかない。飲まない人に酒を渡しても、相手は処分に困るか、義理で開けるかのどちらかです。

日本酒に慣れていない人で、お酒自体は飲む、という相手なら、苦手な人との飲み方の記事で書いた度数の低いスパークリングタイプが向いています。アルコール分5度の「澪」のような酒なら、ビール並みの度数で、甘くて飲みやすい。この場合は後で書く四合瓶にこだわらず、300mlの小瓶で十分です。「相手が飲める酒か」を先に考えるのが、手土産の礼儀だと思います。

生ではない、ふつうの火入れの酒を選ぶ

次に困らせるのは、要冷蔵の酒です。生酒の記事で書いたとおり、国税庁の「清酒の製法品質表示基準」では、製成後に一切加熱処理をしない清酒、つまり生酒には、保存や飲用上の注意事項を表示することになっています。裏ラベルに「要冷蔵」とある酒は、渡した瞬間から相手の冷蔵庫を占領します。

日本酒造組合中央会の解説でも、香りの変化が早い生酒や吟醸酒、アミノ酸の多いタイプの酒は、保存に細かい配慮が必要だとされています。相手がそのつもりで受け取ってくれるなら生酒もいい手土産ですが、「日本酒好きらしい」程度の相手なら、火入れを省いていない、ふつうの2回火入れの酒のほうが安全です。確かめ方は2つ。火入れに関わる「生」の字(生酒・生原酒・本生・生詰・生貯蔵)がないこと、そして「要冷蔵」「冷蔵保存」の表示がないこと。2つを見れば、条件はクリアです。生一本や生酛の「生」は火入れとは関係ないので、気にしなくていい。ひやおろしも多くは生詰めなので、ひやおろしの記事を思い出しつつ、要冷蔵の表示を確かめてください。

四合瓶にする

量の話です。四合瓶の記事で書いたように、四合瓶は720ml、一升瓶は1.8L。一升瓶は見栄えがして喜ばれそうに思えますが、高さがあって家庭の冷蔵庫に収まりにくく、開けてから飲み切るまでに日数がかかります。もらった側が一人暮らしや晩酌の量が少ない人なら、後半を持て余すのが目に見えています。

火入れの酒なら、開けるまでは涼しい棚に置いておけます。量も4合なので、1日1合ずつでも4晩で空く計算です。贈る側にとっても、紙袋ひとつで持ち運べる大きさです。迷ったら四合瓶、で間違いありません。

手土産の日本酒を選ぶ5つの条件を一覧にした図。条件1は相手が日本酒を飲む人であること(慣れていない人には度数の低いスパークリング)、条件2はふつうの火入れの酒(ラベルに火入れに関わる「生」の字と「要冷蔵」の表示がないこと)、条件3は四合瓶(720ml。一升瓶1.8Lは冷蔵庫に入りにくく飲み切るのに日数がかかる)、条件4は箱か包みに入れて光と暑さを避けて運ぶ(日本酒は光と温度で色や香味が変わる)、条件5は産地が言える酒(産地名は全部をその産地で醸造した酒だけが表示できる)。5つに添えて、有名な大吟醸より条件を満たす酒のほうが手土産として強い、と書いている

箱か包みに入れて、光と暑さから守って運ぶ

火入れの酒は涼しい棚に置ける、と書きましたが、光と暑さは別です。中央会の解説では、日本酒の理想的な保存環境は1〜8℃で温度変化が少なく、日光から遮断されていること。蛍光灯も使わないのが理想、とまで書かれています。月桂冠の保管のQ&Aも、光(紫外線)や温度の影響で色や香味が変化しやすく、数時間日光に当てるだけで着色や劣化した臭いが出る、特に透明な瓶は要注意だと説明しています。褐色やエメラルドグリーンの瓶のほうが紫外線を通しにくいこと、保管は20℃前後の涼しい場所がよく、30℃ほどの高温に長く置くと劣化が進みやすいことも、同じQ&Aにあります。

手土産の酒がいちばん危ないのは、買ってから渡すまでの数時間です。日の当たる車の後部座席に置きっぱなし、夏の駅のホームで直射日光、こういう場面で酒は静かに傷みます。だから箱入りか、少なくとも紙で包んで、日に当てない。買った店で化粧箱を付けてもらえるなら、見た目のためというより、光よけとして価値があります。

最後に、産地が言える酒を

ここまでは「困らせない」の話でした。最後のひとつだけ、「喜ばれる」に寄せます。

手土産の酒は、渡すときに一言添えられるかどうかで印象が変わります。いちばん言いやすいのが産地です。国税庁の表示基準では、ラベルに産地名を書いてよいのは、その酒の全部をその土地で醸造(加水も含む)した場合だけ、という決まりになっています。米の産地まで地元とは限りませんが、「この土地の蔵が仕込んだ酒です」の一言は事実として言えます。産地名の表示がない酒でも、製造者の住所欄を見れば蔵の場所は分かります。

広島に住んでいるなら、広島の酒は手土産として強い。相手が広島の人でなければ、それだけで話のきっかけになるし、相手が広島の人なら、知っている蔵の話で盛り上がれる。酒屋の選び方の記事で書いた裏ラベルの「蔵元のひとこと」も、添える一言のネタになります。

値段の話は、ここまでひとつも出てきません。高くて有名な大吟醸より、相手が飲む人で、火入れの四合瓶を、光に当てずに運んで、産地を一言添える。その一本のほうが、手土産としては強い。僕はそう考えています。


この記事を書いた人

藤本裕介

広島在住。映像の仕事のかたわら日本酒にどハマりし、いつか自分の酒を仕込みたくて、蔵を訪ね歩いています。飲み手として、半歩先の楽しみ方を書いています。

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